私は自分の曲をより形にしたいと思い、ギタリストに弾いてもらいました。
ところが、ギタリストからすると正しくない、まだこの世に存在していないコードがたくさんあったため、たくさんの修正箇所がありました。
修正された結果、正しいコードで弾かれたギターとベースの音源が完成しました。
ところが、全然しっくりこないのです。
響きが違うのです。
響きが違うだけで、しかも正しいコードで弾かれているはずなのですが、イメージから遠ざかってしまったのです。
私はソロアルバムを作ってみたいと考えていましたが、演奏技術的にはギターやベースの演奏を録音できるレベルには程遠いものでした。
幸いなことに、多少おかしなコードでもそのまま弾いてくれるというギタリストが現れたため、彼にお願いしてソロアルバムを作成しました。
彼は8トラックのカセットテープMTRを持っており、もう一人の協力者はMDタイプのMTR8を持っていたので、双方に協力してもらい、私のソロアルバムは完成しました。
一人多重録音を始めてからかなりの歳月が流れていました。
次回作はもっと自分の納得できる作品にしたいと思い、私はもう一度一人多重録音に戻りました。
ただ、その頃にはドラムでいくつものバンドを掛け持ちしており、ドラムの個人練習をする時間さえも作れない状況でした。
気合いを入れてMD4を購入したのですが、電源が入らない、液晶画面が表示されない、フリーズする等の不具合が次々と発生し、その度にYAMAHAに持ち込んで、不具合が見つからなかったとか、お宅の電源に問題があるとか、いろんな説明を受けましたが、どれも釈然としない感じでした。
たまに電源が入ることはありますが、あまりにきまぐれな状態のため、次第に録音から遠ざかって行きました。
幸か不幸か、その頃やっていたバンドは勢い付いており、一人多重録音をすることはすっかりなくなっていったのです。
私はドラマーとして精一杯活動していました。
そして月日が流れて、機材は変わり、カセットテープやMD、DATなどの馴染み深い機材はあまり見かけなくなりました。
ギターを弾くこともなくなりましたが、一方でジャズを聴くようになってからは、自分が考えていた以上にコードの響きは奥が深くて、私が過去に考えたおかしなコードもそのどれかに当てはまるかも知れないと思うこともありました。
この時はまだ、その後に起きる素敵な奇跡には気付く由もありませんでした。
続く