一人多重録音 第5話 最終回

実は一人多重録音をしている中で気になっているアーティストがいました。

VELVETUNDERGROUND
PASTELS
RUBY RUBY STAR

他にもいますが、これらのアーティストは音の使い方に感覚的に相通じるものを感じていました。

開放弦の響きを残した個性的な響きや、ギターとベースの絡み方が面白く、それを強調しているところがポイントであり共通点です。

中でもRUBY RUBY STARは実験的な感じではなく、個性的な響きがありつつも不安定なコードではない音の選び方に興味を感じました。

自分の感覚が完成されたとしたらこんな感じになるだろうと思わせる何かがありました。

しかもRUBY RUBY STARはほぼ全てが一人のミュージシャンのソングライティングと複数の楽器演奏で成り立っており、まさに私にとってはお手本であり尊敬できる方です。

またそのボーカルが実に自分の好みのど真ん中だったので、ドップリとその世界観に浸りました。

私が今まで聴いてきた音楽の中に打ち込みドラムの音楽は数えるほどしかありませんでしたが、そんな自分の中の固定観念もすんなりと消え去るほどにハマりました。

RUBY RUBY STARが活動していた時期は短かったのですが、私はずっと聴き続けていました。

メデイアにもほとんど露出していなかったため、その後の情報を知る手掛かりはありませんでした。

しかし、歳月が流れて諦めかけていた時に、RUBY RUBY STARことhidekaさんが活動を再開しているのを知りました。

私は嬉しくなり、新たな音源も入手して聴いていました。

そして貴重なライブに足を運びました。

そこで初めてお会いし、言葉を交わさせていただいたのです。

それはもう感動でした。

一人多重録音の頃からの長年の大ファンなので、本当に会えて嬉しかったのです。

私は出会いに感謝しながら、こんな素敵なアーティストと一緒に音を出せたら、人生の中で最も素晴らしい経験になるだろう、と強く思いました。

そして奇跡が起こるのです。

一人多重録音 第4話

私は自分の曲をより形にしたいと思い、ギタリストに弾いてもらいました。

ところが、ギタリストからすると正しくない、まだこの世に存在していないコードがたくさんあったため、たくさんの修正箇所がありました。

修正された結果、正しいコードで弾かれたギターとベースの音源が完成しました。

ところが、全然しっくりこないのです。

響きが違うのです。

響きが違うだけで、しかも正しいコードで弾かれているはずなのですが、イメージから遠ざかってしまったのです。

私はソロアルバムを作ってみたいと考えていましたが、演奏技術的にはギターやベースの演奏を録音できるレベルには程遠いものでした。

幸いなことに、多少おかしなコードでもそのまま弾いてくれるというギタリストが現れたため、彼にお願いしてソロアルバムを作成しました。

彼は8トラックのカセットテープMTRを持っており、もう一人の協力者はMDタイプのMTR8を持っていたので、双方に協力してもらい、私のソロアルバムは完成しました。

一人多重録音を始めてからかなりの歳月が流れていました。

次回作はもっと自分の納得できる作品にしたいと思い、私はもう一度一人多重録音に戻りました。

ただ、その頃にはドラムでいくつものバンドを掛け持ちしており、ドラムの個人練習をする時間さえも作れない状況でした。

気合いを入れてMD4を購入したのですが、電源が入らない、液晶画面が表示されない、フリーズする等の不具合が次々と発生し、その度にYAMAHAに持ち込んで、不具合が見つからなかったとか、お宅の電源に問題があるとか、いろんな説明を受けましたが、どれも釈然としない感じでした。

たまに電源が入ることはありますが、あまりにきまぐれな状態のため、次第に録音から遠ざかって行きました。

幸か不幸か、その頃やっていたバンドは勢い付いており、一人多重録音をすることはすっかりなくなっていったのです。

私はドラマーとして精一杯活動していました。

そして月日が流れて、機材は変わり、カセットテープやMD、DATなどの馴染み深い機材はあまり見かけなくなりました。

ギターを弾くこともなくなりましたが、一方でジャズを聴くようになってからは、自分が考えていた以上にコードの響きは奥が深くて、私が過去に考えたおかしなコードもそのどれかに当てはまるかも知れないと思うこともありました。

この時はまだ、その後に起きる素敵な奇跡には気付く由もありませんでした。

続く

一人多重録音 第3話

私はピンポン録音の音痩せを克服する方法として、ピンポン録音をしない方法を編み出しました。

4トラック全てに録音したら、それを完成品としてラジカセにライン録音してしまいます。

そしてラジカセにライン録音したものをステレオで1トラック、2トラックに戻すのです。

そして3トラック、4トラックに違うものを録音したら、その全体をまたラジカセにライン録音するのです。

この方法を使えば音の劣化は少なめで済みます。

で、せっかく画期的な方法を編み出したのですが
シンプルなほうがいいや、と考え方が変わり、ギターとボーカルとコーラスだけというシンプルな録音ばかりするようになりました。

そのころにはドラム、ベースは勝手に頭の中で鳴っていましたので、自分で聴く分には大丈夫でした。

でも、人に聴かせて、こんな感じで演奏してほしいという欲が出てきました。

そこでまた新たな問題が発生したのです。

なんと、私はギターのコードを勝手に作っていたことに気が付くことになったのです。

続く